2017年6月20日火曜日

血栓性微小血管症 Thrombotic microangiopathy

1) 血栓性微小血管症 Thrombotic microangiopathy(TMA)の概念 [1,2]
・疾患概念がみつかった背景から溶血性尿毒症症候群(HUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)がよく知られてきたため、下痢症状がない(Shiga-toxinによらない) HUSatypical HUS、原因が同定できないTTPidiopathic TTPと呼ばれてきた。その後、HUSTTPatypical HUSidiopathic TTPの病態が明らかになり、一連の症候群であると考えられている。
TMAとは臨床的特徴(溶血性貧血、血小板減少、臓器障害)と病理的特徴(動脈あるいは毛細血管の塞栓による血管障害)をもった一連の症候群を指す。
Primary TMA
Name
Cause 
Clinical Feature
Hereditary Disorders
ADAMTS13 deficiency-mediated TMA
ADAMTS13遺伝子の変異
典型的には小児期に発症するが成人発症例もみられる。虚血性の臓器障害がみられるが、AKIは一般的でない。変異のパターンによっては無症状
Complement-mediated TMA
補体遺伝子の変異により第2経路の活性化が促進されることによる
典型的には小児期に発症するが成人発症例もみられる。AKIがよくみられる。
Coagulation-mediated TMA
DGKEの変異。PLGTHBDの変異も示唆されている。
DGKEの変異の場合、典型的には1歳以前にAKIで発症する。その他の変異の臨床的特徴はわかっていない。
Metabolism-mediated TMA
MMACHC遺伝子の変異(ホモシスチン尿症を伴うメチルマロン酸尿症コバラミンC)
典型的には1歳以前に発症する
Acquired Disorders


ADAMTS13 deficiency-mediated TMA
ADAMTS13活性を阻害する自己抗体

Shiga toxin-mediated TMA
Shiga毒素産生大腸菌あるいはShigella
dysenteriaeの感染
乳幼児に多い、AKIを呈する。多くは孤発例だがアウトブレイクを起こすこともある。
Complement mediated TMA
CFH活性を阻害する自己抗体
小児および成人においてAKIを初発として見られることが多い。
Drug-mediated TMA
 (immune reaction)


Drug-mediated TMA (toxic dose-related reaction)


TTPADAMTS13 deficiency mediated TMA
HUS=Shiga toxin-mediated TMA

■疾患に関連し2次的にTMAを呈しうるもの(原因は明確でない) 
 例)・悪性腫瘍、化学療法
  ・全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群
  ・HIV
  ・妊娠、HELLP症候群、経口避妊薬
  ・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリンやタクロリムス)
2) atypical HUSと遺伝子異常  [3]
atypical HUS補体の代替経路の制御異常による疾患であることが明らかにされてきた。
atypical HUSの中で最も多い変異はCFHの変異である。
・多くは”loss of function”型の変異だが、“gain of function”型の変異もある。
atypical HUSの半数近くは原因遺伝子がみつかっていない。
10%の患者は複数の遺伝子変異をもっている。特にCFIの変異とCFHあるいはMCPの変異であることが多い。
・最近ではDGKEの変異が明らかになった。

CFH(complement factor H)
20個のショートコンセンサスリピート(SCR、アミノ酸の繰り返し配列)からなる。
SCR1-4CFIの補酵素として働く部位として必要、SCR19-20が細胞表面への結合に必要で、aHUSでは多くの変異がSCR19-20に存在する。
CFHに対する自己抗体が産生されると、多くは小児期に発症するatypical HUSをきたすことがある。C末端、特にSCR20に対する自己抗体が産生される。結果的にはCFH遺伝子変異と同様の機序となる。CFHに対する自己抗体を生じる患者においては、稀な例外を除いては、CFHR1CFHR3(CFH関連の遺伝子は1-5まである)の喪失がみられる。これらの遺伝子の喪失とCFH自己抗体の存在がatypical HUSの独立した危険因子なのかは明らかになっていない


3) エクリズマブ   [4-6]
C5が分解されMACが形成されるのを阻害するヒトモノクローナル抗体
・当初は発作性夜間血色素尿症に対する治療として使用されはじめた。Atypical HUSの患者に対しては①血小板低下と腎障害がある17人②最低8週間の血漿交換あるいは血漿投与によって25%以上の血小板低下がない腎障害がある20人を対象として2013年に前向きの研究がなされ、いずれの患者においても腎機能の改善が得られた。
・小児のatypical HUS患者に対する前向き研究は2016年に公表されている。19人の患者に投与を行ったこの報告では、血球・腎機能の改善が得られた。この報告では、半数の患者が事前に血漿交換あるいは投与を行われていなかった。遺伝子変異も調べられているが、遺伝子変異の有無や遺伝子変異の種類によらず効果が得られた。
・日本では2013年にatypical HUSに対する適応が追加された。
・前述の2つの前向き研究では髄膜炎菌感染症患者の発症はなかったが、髄膜炎菌をはじめとする莢膜形成細菌による感染症を発症しやすくなる可能性があることから、緊急治療が必要な場合を除いては投与開始2週間前までに髄膜炎菌に対するワクチンを接種することが添付文書に記載されている。


4) Reference
1.         George, J. N., & Nester, C. M. (2014). Syndromes of thrombotic microangiopathy. New England Journal of Medicine, 371(7), 654-666.
2.         Kaplan, B. S., Ruebner, R. L., Spinale, J. M., & Copelovitch, L. (2014). Current treatment of atypical hemolytic uremic syndrome. Intractable & rare diseases research, 3(2), 34-45.
3.         Hirt-Minkowski, P., Dickenmann, M., & Schifferli, J. A. (2010). Atypical hemolytic uremic syndrome: update on the complement system and what is new. Nephron Clinical Practice, 114(4), c219-c235
4.         Zuber, J., Fakhouri, F., Roumenina, L. T., Loirat, C., & Frémeaux-Bacchi, V. (2012). Use of eculizumab for atypical haemolytic uraemic syndrome and C3 glomerulopathies. Nature Reviews Nephrology, 8(11), 643-657.
5.         Legendre, C. M., Licht, C., Muus, P., Greenbaum, L. A., Babu, S., Bedrosian, C., ... & Eitner, F. (2013). Terminal complement inhibitor eculizumab in atypical hemolytic–uremic syndrome. New England Journal of Medicine, 368(23), 2169-2181.
6.         Greenbaum, L. A., Fila, M., Ardissino, G., Al-Akash, S. I., Evans, J., Henning, P., ... & Van De Kar, N. C. (2016). Eculizumab is a safe and effective treatment in pediatric patients with atypical hemolytic uremic syndrome. Kidney international, 89(3), 701-711.

補体

1) 補体の働き
■感染に対する宿主の防御
・オプソニン化:血清学的な溶連菌感染が有用になる場合
 ・白血球の走化と活性化
・細菌や細胞の溶解
■自然免疫と獲得免疫の接点
 ・抗体反応の促進
 ・免疫記憶の強調
■不要物の処理
 ・組織から免疫複合体の除去
 ・アポトーシスを起こした細胞の除去

2) 補体の活性化経路
C3の分解が3つの経路のポイントになる。
■古典経路
細菌表面の抗原に結合した抗体にC1複合体(C1qC1rC1sからなる)が抗体に結合する。C1sは最初に細菌表面に結合しているC4を分解し、次にC2を分解する。これによって、C4bC2a酵素複合体が形成され、これが古典経路におけるC3転換酵素として働く。
■マンノース結合レクチン経路
マンノース結合レクチン(MBL)、マンノース結合レクチン関連セリンプロテアーゼ(MASP)1・2からなる複合体が細菌表面のマンノースに結合する。MAPS2C1sC3転換酵素であるC4b2aの形成につながるのと同様にはたらく。MASP1は直接C3を分解しうる。
■第2経路(代替経路)
細胞表面のタンパクや糖質の水酸基にC3bの一部が結合する。C3bC2に相同するタンパクであるfactorBに結合し、C3bB複合体を形成する。FactorDC3bに結合したfactorBを分解し、C3bBbが形成され、これが代替経路におけるC3転換酵素としてはたらく。プロパージンの結合はこの酵素を安定化させる。


C3転換酵素はC3C3bに分解し、C3bは補体活性化がおきているまわりで結合する。このC3bは古典経路と代替経路の転換酵素の中のC4bC3bに結合し、それぞれC5転換酵素を形成する。このC3bC5のアクセプター部位としてはたらく。C5は、アナフィラキトキシンであるC5aC5bに分解され、C5bは膜攻撃複合体(MAC)の形成を開始する。


3) 補体の調節
・主に3つの経路がある
①セリンプロテアーゼであるComplemeng factor(CFI)によるC3bの不活性化。これには補酵素である可溶性Complement factor H(CFH)、あるいはmembrane cofactor protein(MCP, CD46)のいずれかを必要とする。
Decay-accelating factor(DAF, CD55)によるC3bBbの不活化。
CD59によるMACの形成の阻害



Reference
The alternative pathway of complement and the thrombotic microangiopatheis. Transfus Apher Sci.2016;54(2):220-31.