2015年12月30日水曜日

Bell麻痺

Q外で末梢性の顔面神経麻痺を見たときにどうすればよいか?MRIは必要か?等々の疑問からUp To Date ❝Bell’s palsy: Pathogenesis, clinical features, and diagnosis in adults❞とBell’s palsy: a summary of current evidence and referral algorithm.Family Practice;2014:31(6):631-42より
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・85%は3週間で改善し、71%は完全に回復する。13%は軽度の麻痺を呈し、16%は顔面の非対称などの重度の麻痺を残す。
・顔面神経麻痺の49-75%をBell麻痺が占める。
・HSVの再活性化
・Bell麻痺は妊娠女性、DM患者でリスクが高い。子どもでは稀。
・表情筋の麻痺により顔面の筋力低下が最も一般的な症候である。他の特徴としては、80%で舌咽神経や三叉神経領域の感覚低下、60%で顔面と後頚部の痛み、57%で味覚変化、30%で聴覚過敏、20%でC2領域の感覚低下、20%で迷走神経の低下、3%で三叉神経運動枝の低下がみられる。ドライアイ、ドライマウス、流涙は17%でみられる。
・上位運動ニューロンの障害でないかを除外する。下位運動ニューロンの障害として一般的なのは、特発性、外傷性、腫瘍性、炎症性である。炎症性の顔面神経麻痺はVZVの再活性化で生じるものがRamsay-Hunt症候群として有名であり顔面神経麻痺全体の8-34%を占める。VZV以外にもHSV、CMV、アデノ、EB、風疹、mumps、インフルB、コクサッキーなども原因となりうる。
・鑑別;中耳炎、Lyme病、Guillain-Barre症候群、HIV感染症、サルコイドーシス、シェーグレン症候群
【診断】
・びまん性に顔面神経の症候が出現する。顔面筋の麻痺を呈し、舌の前2/3の味覚消失や涙腺・唾液腺の分泌変化を伴うこともある
・発症は急性で1-2日かけて出現する。経過は進行性で3週間以内にピークに達し、6ヶ月以内に回復あるいは改善がえられる。
・誘発筋電図は麻痺の重症度や、改善の評価にしようされる。振幅の低下は軸策の変性を示唆し、潜時の延長は脱髄を示唆する。軸策変性を適切に評価するために発症3日以上経過してから行われるべきであるが、2週間以上経過したあとだと信頼性はなくなる(
・髄液検査やMRIの意義は明らかになっていない
・先駆症状として耳痛や聴力低下を呈することがある
・顔面の運動は、閉眼、まゆをあげる、まゆをひそめる、歯をみせる、口にしわをよせる、などで評価する
・前額のしわよせが片側しかできないことは中枢性であることを示唆するが末梢性の除外にはならない
・所見が非典型的で3週間以上かけて緩徐に進行するものや、4か月たっても改善しないものは画像検査が必要である。これらの症例では他の疾患がないか血液検査も考慮すべきである。
・春~秋にLyme病に罹患しうる可能性があった患者の場合はLyme病の血液検査をするべきである。特に両側性の顔面神経麻痺や他のLyme病の特徴を持つ場合は行うべきである。


【治療】
・発症72時間以内に1mg/kg/dayのステロイド。5-10日間で半量にし、終了する。
・アシクロビルは最もよく使われるが有効なのは15-30%程度
・外科的減圧術の有用性についてはエビデンスが乏しい。
・電気刺激治療や、温熱療法やマッサージは代替療法として広く使われてきたけれどもエビデンスは乏しい
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顔面神経の症候を的確に評価すること、発症までの経過を確認すること等。明らかに末梢性、と思えば救外の場面でにMRIは不要だろう。まぁとれと言われる状況が多いと思われますが。

2015年12月26日土曜日

anxiety comorbidity in S

統合失調症患者は不安症状を持っている。その不安は病的なのか、と考えた。そもそも統合失調症(以下S)は不安障害を合併しうる。以下、統合失調症における不安障害の合併についてAnxiety comorbidity in schizophrenia.Psychiatry Research;2013:210:1-7の内容を紹介する。
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・Sスペクトラムにおける不安障害の合併はある報告では38.3%であった。そのうち、社交不安障害が14.9%であった。そのほかはPTSD、強迫性障害、全般性不安障害、パニック障害、特定の恐怖症であった。


<経過>
・不安はSの臨床症状や予後に影響する。
 ・Sリスクの高い人をフォローした研究では、社交不安はS発症のリスクであった。
 ・強迫性障害、パニック障害もSのリスクを高める
 ・不安障害の存在は予後不良
・不安が強いことは病識が良いことと関連していたが、一方で幻覚や抑うつの強さ、希望のなさ、機能低下と関連していた
・環境因子もSにおける不安に影響する
 ・家族との関係がよくないことは不安を増強させる
 ・家族への心理教育は有効
・精神症状の重症度、全般的な機能低下、QOLの低下にも影響する。
・認知機能障害との関連を示すデータは乏しい
・一方で不安障害の合併はSのアウトカムに有益な点もあるとする研究もある


<治療>有効であるというエビデンスがあるもの
・社交不安障害:アリピプラゾール、認知行動療法(CBT)
・PTSD;精神療法
・強迫性障害:三環系抗うつ薬、SSRI、CBT、曝露反応妨害、ECT
・パニック障害;アルプラゾラム、ジアゼパム、イミプラミン、CBT
・不安症状に対してのアプローチとしてprogressive muscle relaxation trainingやmindfulness trainingは有効的らしい
※常にアカシジアでないかを鑑別する必要がある

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2015年12月14日月曜日

救外でうつ病・自殺企図の患者に出会ったら

救急外来で自殺企図の患者を2連続で診たときに探した論文、The Depressed Patient And Suicial Patient In The Emergency Department: Evidence-Based Management And Treatment Strategies. Emergency Medicine Practice;2011:13(9)より。あまり有益な情報はなく読んでいる途中で飽きたので(以下略)とし、あとは気になったtableの内容について書いた。
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Q外を受診する精神疾患で最も多いのは気分障害(42.7%)であり、次いで不安障害(26.1%)、アルコール関連(22.9%)である。自殺企図も多い。だがQ外でのこれらの診断やマネジメントについては標準化されたガイドラインはない。Q外において気分障害の患者にケアをするのに複雑なのは、主訴にも副次的な訴えにもなりうることである。しばしばうつ病は一見関係のない身体的な主訴に関係していることもある。


Q外での評価
うつ病/自殺企図の患者は病歴、身体所見、全体的な印象の点から考えても様々である。患者が抑うつ気分を主訴して訴えることもあれば、身体症状として訴えることもある。これらの患者に対しては十分なアプローチを行うことが必須である。気分障害を呈している患者に対してすぐに行うべき介入は、患者自身と他人の安全を確保することである。すなわち、患者の服や荷物を確認して危険なものや薬剤を除くこと、1対1で観察を行うことが必要であるし、もし自傷他害のリスクが差し迫っているならば患者の医師によらず身体的または薬剤で診察が終わるまで抑制をする必要がある。
◆病歴
 抑うつ/自殺企図の患者を評価するにあたって、柔軟なアプローチで、差し迫った自傷他害のおそれの程度を評価することが必要なアプローチである。患者からの情報だけでなく、家族や友人からの情報も有用である。
 抑うつ症状、患者の機能(個人/家族/社会)への影響の推移をまとめることが鍵となる。増悪寛解因子の存在は治療可能な抑うつ症状の原因を同定するのに役立つかもしれない。影響する因子として、MIなど最近の身体的なイベントや内服薬のリストを入手する。
 精神科的病歴(精神科入院や治療歴があるか、自殺企図があるか、危険行動をするか)を確認する。さらに、不安症状の存在、アルコールや他の薬物の乱用は経過が悪いことや重症であることに関連するので、考慮する必要がある。(以下略)


Q外におけるうつ病患者のリスクマネジメントにおけるピットフォール
◆「この患者はよくQ外に酔ってきてしらふでかえっていく。単に酒飲みで眠いだけなのかと思っていた」
→Q外に頻回にくる患者は急性の変化を見逃されやすい。物質乱用がある患者での自殺率は増加している。よって、バイタルサインの評価ししらふでの再評価を行う必要がある。
◆「患者に(自殺の)計画があるかを尋ねることで、患者にそのアイデアを与えてしまい実行するように促進しているのではないかと恐れてしまった:
→自殺について直接尋ねることで自殺リスクは増加しないことが示されている
◆「患者は単に注意をひきたくて少しのジフェンヒドラミンを飲んだといいました」
→自殺企図の患者が申告する薬の量やタイプはしばしば信頼できず不確実なことがある。
◆「橋を飛び降りることを考えていると患者は家族に話していて単に注意をひきたかったのだと考えたのです:
→すべての患者が自殺企図の際にそれをほのめかすような深刻なことを言う訳ではない
◆「患者は胸の痛みについて話し続けていて、抑うつ気分や希死念慮については話さなかったのです」
→胸痛や腹痛を主訴としたうつ病患者に出会うことは珍しくない
◆「患者は悲しそうに見えていて、足の痛みや倦怠感は気分が沈んでいるだけだと考えたのです」
→精神的な主訴の患者であっても身体の評価は必須である。
◆「患者を1対1で監視する必要はないと思ったんです。患者は自殺したかったといったけれどもとても落ち着いているようだったし協力的だったのです」
→1対1で観察することは必要である。
◆「患者はQ外で暴力的になるようなタイプには見えなかったのです」
→自殺企図の患者は危険なものをもっていないかを確認する必要がある
◆「単に落ちつくために抗不安薬をほしがっているだけだと思ったのです:
→急性の抑うつ症状を呈している患者にたくさんの量の抗不安薬を処方することは危険である
◆「転移性肺腫瘍と診断されたところで患者は人生の終わりだ、死にたいと感じていたようです。そのような診断をうけたあとではそう感じるのは当然のことだと思ったのです」
→ストレスが契機となっている患者でも、患者の安全が確保されるかを常に評価する必要がある。
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