2017年4月29日土曜日

急性副鼻腔炎

2年前にお世話になったup to date大好きな先輩が「一度だけ副鼻腔炎見たことあるけど鼻汁がやっぱりすごかった」と話していた。自分で経験したことはないが、見落としてないかな。
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急性上気道炎の成人において、約90%がウイルス性急性副鼻腔炎を合併しているけれども、急性細菌性副鼻腔炎へ至るのは0.5-2.0%である。
起因菌:急性細菌性副鼻腔炎の原因として多いのは、Streptococcus penumoniae, Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis, Staphylococcus aureusである。
■Natural History85%の患者が抗生剤治療なしで7-15日間以内に症状は改善あるいは治癒する。しかし、約90%の患者に抗生剤が処方されている。
■Diagnosis
・まずウイルス性の急性上気道炎と細菌性副鼻腔炎を区別する。急性副鼻腔炎の患者では、通常の上気道炎より鼻腔症状が目立つ。膿性の鼻漏、鼻閉、顔面痛、など。
・ウイルス性上気道炎は通常すみやかにピークに達し、3日目までに改善傾向、1週間で改善する。25%の患者はそれ以上続くけれども改善はする。
・一方で、細菌性副鼻腔炎は改善がないまま10日間およびそれ以上持続し、一度改善した後に再増悪するパターンがみられる。
・色のついた鼻汁だけを根拠に抗生剤投与を開始してはいけない。色のついた鼻汁は副鼻腔感染を予測しない。(positive likelihood ratio = 1.5; negative likelihoodratio = 0.5).
治療
・症状の出現から10日間まではwatchful waitingが許容される。
・使用するなら第一選択はAMPCCVAはどちらでもいい。レスピラトリーキノロンは第一選択にしない。
・症状の緩和として、鎮痛薬、点鼻ステロイド、生食鼻洗浄を用いる。うっ血除去薬、抗ヒスタミン薬については症状の改善についてのエビデンスは乏しい(抗ヒスタミン薬は鼻粘膜を過度に乾燥させることでうっ血を悪化させる可能性がある)

cf.N Engl J Med 2016;375:962-70.     Am Fam Physician. 2016;94(2):97-105.

2017年4月25日火曜日

ASOとADB~溶連菌感染の血清学的診断~

溶連菌の診断といえばASOとASKしか思いつきませんでしたが、測定すべきはASO(抗ストレプトリジンO抗体)とADB(抗デオキシリボヌクレアーゼB抗体)です。本当は溶連菌感染後糸球体腎炎について勉強したのですが、ASOとADBについての部分のみ掲載します。今回の参考文献はEur J Clin Microbiol Infect Dis.2015;34:845-9.です。
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Kinetics
ASOは感染から1週間後に上昇し、3-5週間後にピーク、6週間後から減少しはじめる。
 感染前の値に低下するのは約8か月である。
ADBは、6-8週間後にピーク、12週後から減少しはじめる。感染前の値に低下するのは約12か月である。
・小児ではASOADBとも感染前の値に低下するまで1年以上かかることも多いとされている。
Disease specifity
ASOは、皮膚感染よりも咽頭感染の場合により上昇する。よって、ASO単独の測定では、先行感染が皮膚感染であった場合に見落とす可能性がある。
Sensitivity and specifity
・真の溶連菌性咽頭炎の患者であっても20%の患者はASOが上昇しないことが示唆されている。
■年齢
ASOADBの抗体価は年齢によって異なっているので、カットオフに注意が必要である。
■診断
ASOADBともに急性期と回復期で2倍以上の変化で解釈する。
1回のみの抗体価で解釈する場合、リウマチ熱やAPSGNは通常最初の感染から2-3週間後に発症するため、ASOADKの動態から言って、診察時に最も抗体価が上昇していることが確認される

・リウマチ熱やAPSGNを疑ったがASOADBともに陰性のときは、溶連菌感染であることは否定的である。

2017年4月9日日曜日

鉄欠乏性貧血か慢性炎症による貧血か

・フェリチン<15ng/mlは鉄欠乏に感度も特異度も高いカットオフとされている
・トランスフェリン飽和度<16%は鉄欠乏のカットオフであるが、トランスフェリン飽和度は炎症でも低下する。
・可溶性トランスフェリンレセプター:造血が低下している時には増加しない。したがって、鉄欠乏性貧血では増加し、慢性炎症による貧血では正常~低値である。これとlogフェリチンの比が鑑別に有用なのではないかと言われている。
参考文献:Blood Rev. 2017 Feb 13. pii: S0268-960X(16)30078-9. doi: 10.1016/j.blre.2017.02.004. [Epub ahead of print] Review. PMID:28216263

2017年4月2日日曜日

大球性貧血

ミニレクチャーで大球性貧血・ビタミンB12欠乏は数回扱ってきた。MCVが100fLを超えているとテンションがあがるw 以下は数年前にレポートを作ったときのものと思われるが、記録として公開。
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大球性貧血 

■MCV>100fLをmacrocytocis(大赤血球症)という。原因としては、アルコール、肝疾患、甲状腺機能低下、巨赤芽球性貧血が代表的である[1]。ビタミンB12や葉酸欠乏がなくてもアルコールだけでも大赤血球症をきたしうる。アプローチとしては、まず網赤血球数、末梢血液像、ビタミンB12を測定すべきとされている[2]。末梢血液像によって巨赤芽球性か非巨赤芽球性かに分類できる。結果を誤解しうるため、骨髄穿刺は診断がつかないときに試みるべきである。巨赤芽球性のものとしては、ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏が代表的だが、そのほか萎縮性胃炎や吸収障害、HIV治療薬やメトトレキサートなどの薬剤も原因となりうる。肝疾患・甲状腺機能低下・アルコールによるものは非巨赤芽球性である。また、出血や溶血、貧血の回復過程など網赤血球数の増加でもmacrocytosisを呈しうる。寒冷凝集素の存在、高血糖、白血球増多症はMCVの偽性高値をきたしうることにも注意が必要である。
■次に、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏を疑うべきなのは次のような場合である[3]。
 ・貧血の有無によらず末梢血液像で楕円形の大赤血球を認める
 ・末梢血液像で好中球過分葉を認める
 ・原因不明の汎血球減少
 ・説明のつかない神経学的所見や症状
 ・高齢、アルコール依存症、低栄養、極端な菜食主義者
■ビタミンB12欠乏が疑われた場合、ビタミンB12>300pg/mlならビタミンB12欠乏は否定的、<200pg/mlならビタミンB12欠乏といえる。実際は欠乏していても正常範囲内を呈してしまうことがあり、病歴・身体所見からビタミンB12欠乏を強く疑い、治療されていない患者ならメチルマロン酸・ホモシステインを測定することも有用である。ビタミンB12欠乏であれば両者とも高値を呈し、ビタミンB12の補充ですみやかに低下する。葉酸欠乏が疑われた場合は、葉酸>4ng/mlなら葉酸欠乏は否定的、<2ng/mlなら欠乏といえる。しかし、葉酸に関しては病院食を1食摂取するだけでも正常化してしまうことがあるため注意が必要である。
■ビタミンB12欠乏の症状は非常に多彩である[4]。神経症状の代表的なものは、後索・側索が亜急性に障害されることによる[5]。神経障害は左右対称性にはじまり、手より足に多い。振動覚・位置覚の低下を伴う異常感覚や運動失調ではじまる。進行すると、筋力低下、痙縮、クローヌス、対麻痺、膀胱直腸障害をきたしうる。そのほかにもさまざまな神経症状を呈しうる[5]。葉酸欠乏ではあまり神経症状はみられないとされている。

1. Macrocytosis. Up to Date
2. Evaluation of Macrocytosis. Am Fam Physician. 2009;79(3):203-208
3. Diagnosis and treatment of vitamin B12 and folate deficienxy. Up to Date
4. Vitamin B12 Deficiency. N Engl J Med 2013;368:149-160
5. Etilogy and clinical manifestations of vitamin B12 and folate deficiency